歯の治療なのに、なぜ薬を聞くの?
歯科受診に「お薬手帳」が大切な理由
こんにちは。かえでファミリー歯科です。
歯科医院を受診したときに、
「現在、飲んでいるお薬はありますか?」
「お薬手帳をお持ちですか?」
と聞かれたことはありませんか?
「歯の治療なのに、飲んでいる薬まで関係あるの?」と思われるかもしれません。
しかし実際には、現在使っている薬の種類によって、歯科治療で注意することが変わったり、お口の中に症状が現れたりすることがあります。
日本歯科医師会でも、薬を服用している方には、歯科受診の際にその薬またはお薬手帳を持参するよう案内しています。
今回は、なぜ歯科医院で薬の情報が必要なのか、代表的な例をご紹介します。
① 血液を固まりにくくする薬と抜歯
心筋梗塞や脳梗塞、不整脈などの治療や予防のために、抗血栓薬と呼ばれる薬を服用している方がいます。
一般には「血液をサラサラにする薬」と呼ばれることがありますが、抗凝固薬や抗血小板薬などいくつかの種類があり、作用の仕方も異なります。
こうした薬を使用していると、抜歯や歯周外科など出血を伴う処置を行う際に、出血への配慮が必要になります。
だからといって、
「抜歯するから、今日は薬を飲まないでおこう」
と自己判断で中止するのは危険です。
抗血栓薬を中断すると、血栓ができることで脳梗塞などを起こす危険性が高まる場合があります。2025年には、日本有病者歯科医療学会、日本口腔外科学会、日本老年歯科医学会による「抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2025年版」も公開されています。治療内容や薬の種類、全身状態などを確認しながら個別に判断することが重要です。
薬は自己判断で止めず、まず歯科医院に現在の服薬内容を伝えてください。
② 「骨の薬」も歯科治療に関係します
骨粗しょう症やがんの治療などでは、骨に作用する薬が使用されることがあります。
代表的なものに、
・ビスホスホネート製剤
・デノスマブなどの骨吸収抑制薬
があります。
これらの薬を使用している方では、まれではありますが、**薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)**という顎の骨のトラブルが起こることがあります。
ここで注意したいのは、
「この薬を使っている=抜歯ができない」
「抜歯するなら薬を休まなければならない」
という単純な話ではないということです。
2023年の国内ポジションペーパーでは、抜歯そのものよりも、抜歯が必要になるような歯性感染症の存在が重要なリスク因子であることが強調されています。また、顎骨壊死を予防するために骨吸収抑制薬をあらかじめ休薬することについては、有用性を示す十分な根拠がなく、「原則として抜歯時に休薬しない」という考え方が示されています。
だからこそ、
「何という薬を使っているのか」
「いつ頃から使っているのか」
「飲み薬なのか、注射なのか」
といった情報が大切になります。
骨粗しょう症のお薬だから歯科には関係ない、とは限りません。定期的にお口を管理し、むし歯や歯周病を進行させないことも重要です。
③ 血圧の薬で「歯ぐきが腫れる」ことがある?
高血圧はとても身近な病気ですが、その治療に使われる薬の中にも、お口に変化を起こすものがあります。
その一つが、カルシウム拮抗薬です。
一部のカルシウム拮抗薬では、歯ぐきが厚くなったり、大きく盛り上がったりする薬物性歯肉増殖症が起こることがあります。
「最近、歯ぐきが腫れてきた」
「以前より歯ぐきが歯にかぶさってきた」
「歯ブラシが当てにくくなった」
といった変化がある場合には、薬の影響も一つの可能性として考えます。
ただし、薬だけですべてが決まるわけではありません。
歯垢(プラーク)がたまって歯ぐきに炎症があると、歯肉増殖が悪化しやすいことも知られています。
そのため歯科では、まずプラークコントロールや歯周治療を行いながら状態を確認します。必要な場合には、処方した医師と連携して薬について検討することもあります。
ここでも大切なのは、血圧の薬を自分で中止しないことです。
④ 「最近、口が乾く」も薬が関係していることがあります
「以前より水を飲むことが増えた」
「口がネバネバする」
「口臭が気になる」
「舌や粘膜がヒリヒリする」
こうした症状は、いわゆる口腔乾燥、ドライマウスでみられることがあります。
唾液が減る原因は一つではなく、加齢や病気、ストレス、生活習慣などさまざまですが、薬の副作用によって唾液の分泌量が低下することもあります。
日本歯科医師会では、睡眠薬や降圧薬などの薬によって唾液が減少する場合があると説明しています。唾液が少なくなると、ネバつきやヒリヒリ感だけでなく、むし歯や歯周病、口臭などのリスクにも影響します。
「年齢のせいかな」と思っていた症状に、服用中の薬が関係しているケースもあるため、口の乾燥が気になる方は、飲んでいる薬についても歯科医院に伝えてください。
「血圧の薬です」だけでは分からないことがあります
診療室でよくあるのが、
「血圧の薬を飲んでいます」
「骨の薬だったと思います」
「白い錠剤です」
というお話です。
もちろん、分かる範囲で伝えていただくだけでも大切です。
しかし、同じ高血圧の治療薬でもさまざまな種類がありますし、薬によって作用や歯科で注意するポイントは異なります。
そこで役立つのがお薬手帳です。
薬の名前だけでなく、服用量などの情報を確認できるため、歯科治療を安全に進めるための重要な手がかりになります。
特に、
新しい薬が追加された
薬の種類が変わった
注射による治療を始めた
別の病院で新しい治療が始まった
といった場合には、以前歯科医院に伝えていたとしても、最新の情報を教えてください。
お薬手帳は「病院や薬局だけのもの」ではありません
歯科では、歯や歯ぐきだけを見て治療しているわけではありません。
全身の病気や服用している薬、治療歴などを確認しながら、必要に応じて医師や薬剤師とも連携して治療を進めます。
薬を飲んでいるからといって、すぐに「歯科治療ができない」ということではありません。
大切なのは、正しい情報を共有したうえで、その方に合った方法を考えることです。
次回歯科医院を受診するときには、
「そういえば、お薬手帳も持って行こう」
と思い出していただけたらと思います。
飲んでいる薬が変わったときや、お口の乾燥、歯ぐきの腫れなど気になる変化があるときもお気軽にご相談ください。

