こんにちは。院長の須貝です。

吉田から、『DHがブログを書いているのに、ドクターが書かないのはどうなの!?』といわれ、今回から私も担当することになりました。

少々難しめな文になってしまって恐縮ですが、よろしくお願いします。

 

さて前回は、「悪い歯並びの原因の8割は『環境』」ということを歯科衛生士の吉田が紹介しました。

良い歯並びにするための『環境』にはいろいろありますが、今回はその中でもかなり重要な『呼吸』について、お伝えしていきます。

呼吸は、どこから吸気するかによって「鼻呼吸」と「口呼吸」の二つに分かれます。

ちなみに、ほとんどの哺乳類は鼻呼吸しかできないそうです。人間は会話をするために、口呼吸もできるようになったと考えられています(乳児は鼻呼吸のみとのことです)。

ここで考えて頂きたいのは、「本当に口は呼吸のための器官であるべきなのか?」ということです。

確かに、運動のときは鼻よりも口で呼吸します。吸気口としては鼻よりも口のほうが大きく、より多くの空気を取り込むことができるからです。

では普段はどうでしょうか?運動していないときも、効率的な口呼吸でいいのではないでしょうか?

実は、口呼吸には大きな落とし穴があります。

口で呼吸するためには、当たり前ですがお口を開けていなければなりません(「開口癖」といいます)。

実際にやってみて頂けるとよくわかりますが、口が開きっぱなしだと、唇や頬の一部がピンと張ってしまいます。そうすると歯が内側に向かって押され、狭い歯並びになります(狭窄歯列弓)。ひどい狭窄になると、V字歯列弓と呼ばれる病態にもなります。

狭窄歯列弓になると、舌房(ベロが収まるスペース)も狭くなります。舌は正しい位置にいることができず、下方に引っ込められてしまいます。この「低位舌」が極めて有害でして、「舌根沈下による気道閉塞」などはその最たるものです。口を開けてまで取り込んだ大量の空気が、口より奥の部分が狭いのでうまく気管に移動できないなど、本末転倒もいいところです。

舌についてですが、人間がゴックンと何かを飲み込むとき、舌はどのような動きをするかご存じでしょうか。

正常では、舌は上に向かって動きます。詳しく言うと、舌尖はスポットポジションに接触し、舌体は口蓋にペッタリくっつきます。これにより口腔の陰圧を高めて嚥下します。

しかし狭窄歯列弓だと、歯が邪魔で舌を上に上げることができません。

ではどうするか。口腔内を陰圧にするため、舌は上でなく前に出るのです(「嚥下時舌突出癖」といいます)。

人間は1日約2000回の嚥下を行うそうですが、そのたびに前歯が後ろから押されることになります。歯が動く力はg単位ですが、舌の力はKg単位と言われています。前歯はこのような強烈な力を12000回も受けるので、当然ながら出っ歯になります。

マルチブラケットで出っ歯を矯正しても、嚥下時舌突出癖がなくならなければずっと後ろから舌に押されていくので、後戻りが起こります。

開口癖に話を戻します。口を開けっぱなしにすると、下顎が後ろに下がるので、気道を圧迫します。そのままでは息が苦しいため、なんとかして気道を解放しなければなりません。しかしどうやって?

実は、人体は下顎を頭ごと前に出し、気道を確保するのです。猫背になって頭部全体を前方に出すこの「前方頭位」は、悪い姿勢の代表格です。頭は結構重たい器官ですので、前方頭位になると身体のバランスも悪くなり、運動機能にも影響がありますし、姿勢維持筋や骨格などにも負荷がかかるでしょう。膝や腰などに良い影響があるはずがありません。しかも、口呼吸がある限りこの傾向は一生涯続くのです。

口呼吸に話を戻すと、口呼吸だと当然口が乾燥します。唾液が乾いてしまうと、汚れを洗い流すことができず、むし歯や歯周病の危険が高まります。口臭も発生しやすくなってしまいます。入れ歯を入れている方は、入れ歯が外れやすくなります。口腔カンジダ症にもかかりやすくなるでしょう。

口呼吸の人は、当然食事時にも口で呼吸します。食物を咀嚼し、嚥下し、呼吸までする。時間がかかって当たり前です。うまく咀嚼できていないことも論文で報告されています。

このように、鼻での呼吸が充分できず口で呼吸せざるを得なくなると、数々の苦難が襲いかかってきます。

口呼吸→開口癖→気道閉塞→前方頭位→運動機能不良・姿勢不良・身体バランス不良

→狭窄歯列弓→嚥下時舌突出癖→前歯唇側傾斜

→口腔乾燥→う蝕・歯周病等

→咀嚼効率低下・食事時間遷延

もしかしたら、まだ他にも口呼吸の問題点があるかもしれませんが、このように列挙してみるとやはり恐ろしいものであることがわかります。しかもこれらは一生涯続くのです!

子どもの口呼吸があれば、早めになんとかしてあげたいものです。

かえでファミリー歯科