かえでファミリー歯科の須貝 誠です。

前回は、マイクロバイオーム(常在微生物叢・じょうざいびせいぶつそう)についてご紹介しました。

 

おさらいすると、

・マイクロバイオームは私たちの身体の一部であり、共生パートナーである。

・マイクロバイオームとの共生関係が破綻すると、常在菌による感染症が発症する。

・共生関係の破綻には、「身体の抵抗力低下」と「マイクロバイオームの高病原性化」の 2パターンがある。

となります。

 

今回は歯周病のマイクロバイオームについてお話ししたいと思います。

 

1. 歯周病のマイクロバイオームはいつできるのか?

 

お口の中の細菌(口腔細菌)をざっくりと分類すると、

①むし歯菌、②歯周病菌、③その他 の3つ に分けられます。

これらはマイクロバイオーム、つまり常在菌です。

 

では、これらの口腔細菌はいつ我々の口の中に入ってきたのでしょうか?

答えは「出生時」です。新生児が産道を通過した際に感染し定着すると言われています。

その後、家族など周囲の人の唾液からも感染し、その菌種は増加します。食生活、生活習慣や

歯の萌出(ほうしゅつ)などの影響で、口腔マイクロバイオームはさらに複雑化し、

時間経過とともにむし歯菌や歯周病菌が定着していきます。

 

意外に思われるかも知れませんが、歯の生えていない乳児にはむし歯菌はいません。

歯が一本 もない総入れ歯の方にもむし歯菌は存在しません。

むし歯菌が感染し定着するには、歯があるこ とが必須条件となるのです。

ちなみに、生まれたときから歯が生えている赤ちゃんがいます(そのような歯を「先天歯(せんてんし)」といいま

す)。

0.05%の確率で発生するそうで、私は見たことがありません。

先天歯がある子は、おそらく 生まれた直後からむし歯菌が定着していることでしょう。

 

前置きが長くなりましたが、ここから本題です。

 

以前のブログでご紹介した、最強の歯周病菌である「PG 菌」は、いつ定着するのでしょうか?

歯周病菌は歯周ポケット、つまり歯ぐきの内部から多く検出されます。

普通に考えるなら、むし歯菌と同じように、歯が生えたらすぐに定着すると思うでしょう。

ですが、つい近年まではよく解っていませんでした。

21世紀になって高感度の細菌 DNA 検査法が開発された結果、やっとこの疑問が解決しました。

老若男女の口腔細菌を調べたところ、小中高生には PG 菌は存在せず、

しかし18才以降の人か らは続々と PG 菌が見つかったそうです。

すぐに次の疑問が生まれます。

なぜ18才以降なのか?

これについては、残念ながら現時点ではわかっていません。

口腔の成長が完了し、歯周組織が安 定しないと定着できないのではないかと推測されています。

この PG 菌の感染と定着が、歯周病マイクロバイオームの完成に大きく関与します。

 

2. なぜ若年者は歯周病が発症しないのか?

 

PG 菌は18才以降に定着しますが、すぐには歯周病になりません。

その理由は、歯周病菌は嫌気性菌、

つまり酸素を嫌うタイプの細菌であることが関係しています。

歯周組織の構造について確認しておきますが、

歯周病のない健康な歯ぐきであれば、

歯の周りに は歯肉溝という溝があります。

この歯肉溝の内部が歯周病菌の住処となります。

若い人は歯肉溝が浅いため、歯肉溝内部の嫌気性が低く、歯周病菌の繁殖に不利となっていま す。

これが、若年者に歯周病が発生しにくいメカニズムであると考えられています。

逆に考えると、歯肉溝の嫌気性が高くなると、若年者であろうとも歯周病が発症すると予想できま す。

では、どのような状態なら高嫌気性となるのでしょうか?

それは、プラークの多い不潔な状態です。

現代の中学生高校生のお口の状態は2極分化していると、常々私は感じています。

とてもきれい な人もいれば、プラークコントロールが上手くできていない人もいます。

慢性的に歯肉溝がプラー クに覆われていれば、

歯肉溝内部の嫌気性はどんどん高まり、

歯周病になりやすい環境になって いくと思われます。

 

3.なぜ成人の中で、歯周病になる人とならない人がいるのか?

 

歯周病菌がマイクロバイオーム、つまり常在菌であるという事実には大きな意味があります。

ほとんどの成人の口腔マイクロバイオームには PG 菌が含まれています。

ソクランスキーのピラミ ッドが完成し、頂点であるレッドコンプレックスまで積み上がっている状態です。

しかし、歯周病になっていない人も少なからず存在します。

30才を過ぎるとピラミッドの構成細菌は固定されると言われています。

それまでに頂点まで積み 上がらず PG 菌が定着しなければ、つまりソクランスキーのピラミッドが完成しなければ、その人は その後の生涯において歯周病に苦しめられることはほぼないと考えてよさそうです。

 

4.歯周病発症の要因とは

 

歯周病マイクロバイオームとの共生関係の破綻には、

「身体の抵抗力低下」と

「マイクロバイオー ムの高病原性化」の

2パターンがあります。

 

「身体の抵抗力低下」については、

①加齢

②喫煙

③望ましくない生活習慣(食生活など)

④不十分 なプラークコントロール

⑤ストレスや疲労

などが挙げられますが、いずれも目新しいものではないと思います。

 

しかし、「マイクロバイオームの高病原性化」は違います。

21世紀に入ってからこの分野の研究が 進み、

今までよく解っていなかったメカニズムに光が当たりつつあります。

 

次回はこの点についてご紹介したいと思います。

かえでファミリー歯科